日本の敬語の変遷は、国語調査委員会による「国語」構築以前と以後に分けられる。「国語」構築以前は、敬語に対する研究や意識があまりなく、1902年国語調査委員会の設立以後から敬語は「日本人の思想」と結び付く。そして敗戦と共に「国語民主化」の波の中、敬語は簡素化される。その後、1980年代以降、高度経済成長と共に「日本的」なものに関心が高まり、敬語は再び多様化、強化される。この流れは、日本語訳聖書にもそのまま反映し、1880年に行われた最初の聖書翻訳である「明治元訳」では、敬語は限られた場面にしか見られない。しかし1917年に出された「大正改訳」では、イエス、神すべての場面で敬語を用いている。その後、敗戦と共に行われた社会改革のながれの中で行われた敬語簡素化によって、1954年に行われた「口語訳」では、ほとんどの敬語は「れる、られる」となった。しかし1987年に出された「新共同訳」では、敬語は再び多様化する。日本における聖書翻訳は、日本の言語政策や社会的影響と密接な関連をもっている。