本研究は、『平中物語』に表われているコンプレックスの原因が何だろうかということを調べることにする。その作業を二項対立という観点で『平中物語』を読み直してみたい。『平中物語』に表われたコンプレックスは身分の葛藤と密接な関係を結んでいる。その関係は主に心的の葛藤を中心とした登場人物で結ばれ、特に貴族階級である平中と相手の女性などに緊密に結ばれている。『平中物語』の大きな流れが彼らを中心に展開するからである。一方、平中と登場人物に絡んだコンプレックスを調べるために二項対立の方法でアプローチしてみた。その分析の結果としては、悩むこと、解決されていない問題、個人的な葛藤、道徳上の問題の原因が当時の社会に潜在している身分の葛藤から伝わったことが分かるようになった。要するに『平中物語』は男女の恋の物語でありながら、登場人物を通じて当時の身分社会の構造的な矛盾を現わそうとしている。また身分の葛藤を取り上げることによって似たり寄ったりの理由で辛い現実を生きている人々により独立的だし、責任ある人生を生きていくことを望む作者の意図が『平中物語』の立場であることをアピールしている。