金聖珉の小説『緑旗聯盟』という題名は、植民地期末期の朝鮮半島において朝鮮総督府の政策を民間側から支援した団体の名称からとったものであった。作品巻頭の「作者のことば」によれば、「半島人の皇民化運動に盡」していることに対して「多大の共感を覚え」、「同じ思想のもとに書かれた」からとある。だが、金聖珉は「緑旗聯盟」とは全く無関係の人間であって、作品内容も「同じ思想のもとに書かれた」とはいえず、思想性を打ち出すことなく、「緑旗聯盟」との関連性は見いだしがたい内容なのである。
金聖珉が『緑旗聯盟』と題したことのうちには、朝鮮文壇において当時、『作家として飯を食っているものは一人もない』という状況下にあったことを考えなければならない。こうし状況下において、著書を刊行できるかどうかは、作家にとって死活に関わることであった。『緑旗聯盟』と題することにより、作品刊行のための「大芝居」に打って出た金聖珉は、結果的には次の時代にまで思いが及ばず、作家ともども現在まで忘れ去られている。
本稿では作家について検討するとともに、内容と時代背景を踏まえ、金聖珉がどうして『緑旗聯盟』と題して作品刊行したか、その意図を探るっていきたい。