本稿では明治・大正期における法律関連独和対訳辞典を取り上げ、各辞典の特徴および相互影響関係について考察した。考察の対象は、『袖珍独和法律辞典』(①)、『独和法学大辞典』(②)、『独和法律辞典』(③)、『独和法律新辞典』(④)である。
まず、各辞典の序文の分析を通じ、『袖珍独和法律辞典』が法律関連の最初の対訳辞典であることが分かった。
出版社は異なるが同一編者が携わっている③と④を比較してみたところ、訳語が完全に一致する場合は、対象の427어のうち274語(64.2%)である。うち、①②とは一致せず③と④の訳語だけが一致するのは274語のうち80어(29.2%)である。
次に、③④の訳語が一致しないものの中で、④が③の訳語をそのまま取り入れ、新しい訳語を付け加えたケースが97語あるが、このうち、②からの影響を受けたと見られるのは55語(56.7%)に上る。つまり、④で付け加えられた訳語は、②からの影響を受けたものが半分以上であり、①からの影響はほとんどないと言える。
『独和法学大辞典』で哲学分野の訳語を載せていることから、哲学専門の対訳辞典である『哲學字彙』との影響関係を調べてみたところ、再版と三版との間に刊行された『独和法学大辞典』の訳語と『哲學字彙』(三版)の訳語と一致するケースが7語ある。つまり、例が少なく全体の傾向とは言えないが、『独和法学大辞典』が『哲學字彙』(三版)へ影響を与えていると言えよう。