『源氏物語』において天皇は、物語の流れに極めて重要な要素であり、また主人公光源氏は天皇の子として生まれ常に王権と関わりながら語られていく。よって『源氏物語』における「みかど」という言葉は極めて重要といえよう。本稿は、その「みかど」を中心に、それがどのような意味で用いられ、またどのような繋がり方をし、最終的にそうした言葉の連鎖が物語の世界に齎す意義とは何かを検討するものである。
「みかど」は「みかどの御妻をさへ過」つという文言を通して光源氏と藤壺の関係を物語の世界に呼び戻し刻印する機能をする。そしてさらに、「わがみかど」「ひとのみかど」といった言葉と連続的に表われることによって、さらにその密通関係を浮彫りにする機能をも持つ。つまり「みかど」という語は、単なる内容的なレベルだけではなく、「みかど」(帝)、「わがみかど」(日本)、「ひとのみかど」(異国)というふうに、まるで韻を踏むかのように反復されることによって、物語全体に光源氏と藤壺の密通を呼び返し共鳴させているのである。