溝口健二は主に家父長制の社会の中で抑圧される女性の問題をリアルに描き出す‘女性を描く監督’と言われる。本稿においては、日本の近世の作家である上田秋成の原作『雨月物語』とモーパッサンの『勲章』とを脚色して作った映画<雨月物語>を通して溝口健二が提示している二つの主題を考察してみた。
映画<雨月物語>は溝口の作品の中でももっとも優れた作品であり、芸術性と技法の面においても高く評価されている作品である。特に溝口の作品には献身と犠牲を耐え忍ぶ女性キャラクターがよく登場するが、映画<雨月物語>には監督がよく描写したきた三つのタイプの女性像が登場している。良妻賢母の伝統的な女性像の宮木、自分の意志で生きていこうとするが結局破滅する若狭、そして権力欲に襲われた夫のために堕落してしまうお浜が登場し、彼女たちの向こうには貪欲と権力欲に陥った男性たちが配置されている。
そしてこの三人の女性の悲劇的な生を通して観客に戦後日本の社会の悲劇的な省察を求めながら戦後復興とともに風化していく過去を喚起させ、戦後日本人の生き方の方向性を提示しようとしている。