日本語の「話す」能力には様々な側面があるが、上級学習者になれば、「正しいアクセント」もその一つの要因と言える。名詞が単独で使われる場合については、学習者自らアクセント辞典などで各単語のアクセント型を調べられるが、複合名詞(広い意味での複合名詞を意味し、2つのアクセント句まで含む)になった場合のアクセントについては確かめる方法がなく、上級学習者でも壁にぶつかってしまう。
本稿では、上級学習者への複合名詞のアクセント指導の方法を提案するため、まず、上級学習者らのアクセントの正確度をシャドウイングと逐次通訳の状況下で比較分析した。状況としては、逐次通訳の方がずっと心理的負担が大きかったはずだが、シャドウイングの時と比較して、アクセントの正確度は若干ながら上昇していた。上級レベルの学習者は、アクセント型がわかっていれば、正確なアクセントで発音できる能力がかなり備わっているものと推測される。
次に、ニュースアナウンサーらが複合名詞をどのように発音していたかについて、1,220の単語を調査した。全体的には‘中頭高型’が87.1%、‘2アクセント句型’が12.9%を占めるが、後部名詞が非動名詞の時は中頭高型が91.3%まで上昇する。また、後部名詞が動名詞の時、「前部名詞+を/が+後部名詞する」の文が成立しない場合は、96.7%が中頭高型であった。学習者がこうしたアクセントの特徴的な傾向を理解すれば、複合名詞の正しいアクセントを身につけていくうえで効果的であるうと思われる。ただし、複合名詞の正しいアクセントはかなりハイレベルな日本語学習者に求められるものであるため、初級や中級レベルで指導するのは早過ぎて不適切と思われる。何をどう指導するか、だけでなく、‘いつ’指導するかも重要な問題である。