本稿は不合理な現實社會を批判し、その社會を變化させようとするユ一トピアの性格に着眼して、武者小路實篤が提唱した新しい社會、「新しき村」を具體化するための過程について考えてみた。「新しき村に就ての對話」のテキストは、具體的に三つで構成されている。それぞれの對話篇を現實の社會批判という点に焦点を當てて分析し、各對話篇の流れをくみながら、武者小路が理想社會の條件として擧げていた点を考察した。「第一の對話」において武者小路は、現實社會の批判の問題について勞動の問題と金の問題に注目している。次に「第二の對話」では、理想社會の構築による諸点を納稅の問題、土地購入及び土地利用の問題、會員の資格と義務の問題、會則の問題、付屬建物の建立の問題等を實に詳しく提示している。最後に「第三の對話」で武者小路は、理想社會の建設のため積極的な活動を開始するという意志を表明していて、これは後に現實社會に建設された「新しき村」というユ一トピア共同體の原動力にもつながっている。
「新しき村に就ての對話」を全體的に見ることにより、理想社會がますます具體化されていく過程が伺えられる。それにともない武者小路の敍述態度も變化していくことを確認した。武者小路は、このような過程を通じて究極的に獲得しようとしたことは何であろうか。それは「人間が最も人間らしく生活できる社會の追求、すなわち人本主義に立脚した人間の幸福の追求」と考えられるであろう。