本稿は、室町から江戶時代にかけて編纂された『御伽草子』を對象にし、「む」の特徵を考察したものである。ま差『御伽草子』の用例を集めて分析し、次にその用例を四つの意味用法に分け、どの意味用法が多く用いられるのかを調べた。その結果、『御伽草子』23編に現れた「む」の用例は全部で406例で、そのうち「推量」の意味が82例(21.2%)、「意志·決意·希望」が265例(65.3%)、「勸誘·適當·命令」が14例(3.4%)、「婉曲·反定」が36例(8.9%)であった。この結果の中で特に注目に値するものは、「む」の用法の中で「意志·決意·希望」が最も多く現れるということで、「む」が語形變化した形態の「う」が近世江戶前期には推量と意志を表したが、後期には意志を表すことが多くなったということと脈を同じくしていると考えられる。すなわち、室町時代の中期においてすでに「む」の意味用法は「意志」の用法がかなり高い比率を占めており、これが「う」の形態に變わっても、意味用法においては「む」の意味用法がそのまま受け繼がれたと考えられる。また、「む」の意味用法が使われる基準についても考察を行った。上接する用言(動詞)による分類であるが、上接する動詞の性質によって[「む」の意味がどのように分類されるのかを調べてみた。その結果、「む」の意味用法を分類する際、上接する動詞の性質(意志動詞·無意志動詞)だけで分類すると、例外の用例が多く現れるので、一般化するのが難しい。從って、それ以外の要素(例えば、「む」の直前にくる助動詞との關係)も考慮に入れて調べる必要があるが考えられる。今後は、江戶前期·中期·後期の各時期に成立した資料に現れた「う·よう」の意味と比較·分析して意味用法の變化樣相を探ってみたい。また、「む」の意味用法の分類においても、先行硏究に現れた分類方法の欠点を補って考察を行いたい。