格助詞省略の本質を究明するため, 時枝の「零記號の辭」と渡邊の「無形化」の意味を考察してみた結果, 時枝の「零記號の辭」の意味は格助詞の潛在, 卽ち「無形有實化」であったが, 渡邊の「無形化」の意味は「無形無實化」とも『無形有實化」とも解釋できた. ところで, 一般に言われている「格助詞省略」の意味は「零記號の辭」または「無形有實化」であるのに, 時枝の「零記號の辭」の說定の問題点及び渡邊の「無形化」の眞の意味を問う過程で, 格助詞が形態的に顯現しないとその意義, 職能も存しないということ, 卽ち格助詞省略の眞の意味は「無形無實化」であることがわかった. このようなことから判斷すると一部の格助詞(が, を, に)は, 一般に言われているように省略されるのではなくて, 意味的論理關係をより明確にするため添加されるのであると言える. ということがこの論文の要旨である.